大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸家庭裁判所伊丹支部 平成4年(家)560号 審判 1993年5月10日

申立人 甲野春子

相手方 甲野一郎

未成年者 甲野花子外1名

主文

未成年者らの監護者を申立人と指定する。

理由

1  申立の趣旨

主文同旨

2  一件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  申立人(昭和29年3月17日生)と相手方(昭和24年12月8日生)とは、昭和52年2月12日婚姻の届出をして夫婦となり、昭和53年8月2日長女花子が、昭和55年12月2日長男太郎が生まれた。

(2)  相手方は、昭和57年勤務していた○○商事株式会社より米国のシカゴ支店勤務を命じられ、同12月渡米し、翌58年4月申立人が未成年者らを連れて相手方のもとへ行った。相手方は、平成2年11月同会社を退職して、以前からサイドビジネスとして申立人を名義上の代表者として設立していたコンピューター機器販売の会社(○○○○○○○○○)の営業に専念し、併せてカラオケ機器も販売するようになった。

(3)  申立人は、平成3年12月頃相手方が女性と親密な関係にあることを示す手紙や写真を発見したことに衝撃を受けて相手方を問い詰めたところ、相手方から過去のことであって現在は交渉がないと言われたが、これを信じることができず、相手方に対する不信感を募らせた。申立人は、同月22日父母と今後のことを相談するために未成年者らを連れて日本に帰国した。相手方もこれに同行し、申立人を宥めようとした。しかし、申立人の相手方に対する不信感は強く、両者は和合するに至らず、申立人は、相手方に別居を申し出たので、相手方は、やむをえず単身米国へ帰り、別居が始まった。

(4) 申立人は、別居後間もなく離婚の意思を固め、平成4年1月中旬頃米国の弁護士に依頼してイリノイ州クック郡巡回裁判所に離婚訴訟を提起した。同裁判所は、同年3月12日未成年者両名の一時的監護権(temporary custody)を申立人に定める旨の命令(court order)を発した。

申立人は、同裁判所から再三呼出しを受け、同年5月2日漸く未成年者を連れて渡米し、同裁判所から指示されたカウンセラーの面接を経た後、同月14日の期日を指定されて出頭したが、更にカウンセラーの面接を受けるように指示され、同月26日の期日が指定された。同月16日双方出頭のうえカウンセラーの面接がなされたが、申立人は、相手方やカウンセラーとの交渉の過程で不安になり、同月17日未成年者らを連れて帰国し、同月26日の期日には出頭しなかった。

同裁判所は、平成4年5月19日未成年者らの一時的監護権を申立人から相手方に変更する旨の命令を出した。相手方は、申立人に右命令に従って未成年者らを引き渡すように度々電話をしてきた。

(5)  申立人は、帰国後から両親のもとで生活しており、平成4年2月からパートタイマーとして働いているが、両親から生活費の援助を受けるとともに、未成年者らの監護を手伝ってもらっている。

(6)  帰国後、未成年者花子は宝塚市内の公立中学校に編入し、未成年者太郎は同市内の公立小学校に編入した後中学校に進学し、申立人及びその両親らと生活しているが、現在の環境に適応している。未成年者らは、相手方に対して特に不満を抱いているわけではないが、現在のところ申立人と日本での生活を継続することを望んでいる。

(7)  相手方は、アメリカ合衆国の永住権を取得しており、前記会社を経営するとともに、併せて不動産仲介業をも経営して相当の収入があり、また、同国に不動産も所有しているが、負債も多い。

(8)  相手方と未成年者らの関係は、離婚訴訟の起こるまでは良好であって、取り立てて問題になるようなことはなく、相手方は、未成年者らを監護することを望んでいるが、未成年者らが帰国後は事実上接触を取れない状況にある。

以上認定の事実によれば、申立人と相手方との婚姻関係は既に破綻状態にあって未成年者らに対する親権を事実上共同行使できない状態にあり、しかも、未成年者らの監護養育の内容についても協議できない状態にあるので、未成年者らに対する監護者を定める必要があるものと解される。

そして、未成年者らの住所がいずれも我が国にあるから、我が国が国際裁判管轄権を有する。また、監護者の指定は、親子関係の法律関係なので、その準拠法は、法例21条により子の本国法である我が国の民法が適用される。

ところで、本件においては、アメリカ合衆国イリノイ州クック郡巡回裁判所から発せられた未成年者らの一時的監護権を申立人から相手方に変更する旨の命令(court order)が存在し、右命令が民事訴訟法200条の外国裁判所の確定判決に該当するか否かが問題となる。

右命令は、外国裁判所が離婚訴訟継続中に一時的監護権(temporary custody)を定めたものであり、終局的を裁判(final judgement)であるか否かは疑問である。他方、その内容は我が国における家事審判法9条1項乙類4号の監護者の指定と同様の内容を持つものであるから、民事訴訟法200条が類推適用されると解する余地もある。

しかしながら、仮に右命令が同条の外国裁判所の確定判決にあたるとしても、以下の事情からすると、現段階では我が国において未成年者らの監護者を定めるのが相当である。

3  前記認定事実によると、未成年者らは現に我が国において申立人のもとで監護養育されており、既にその期間も約1年5月を経過していること、未成年者らは我が国において申立人のもとで生活することを望んでいること、未成年者らの監護養育については申立人の両親の協力が得られること、アメリカ合衆国の裁判所においても当初は申立人を監護者としており、その後相手方に変更されたのは、申立人の裁判に対する非協力的態度に対して制裁的になされたものであって、監護養育の実質に着目したものとは言えないことなどの諸事情が認められる。

これらの事実関係に鑑みると、未成年者らは思春期にあってその人格の形成上重要な発育段階にあり、みだりに生活環境に変更を加えるのは心理的安定性を著しく失わせて情緒不安定に陥らせるおそれがあるものといえ、子の利益及び福祉の観点からすると、現在の段階においては未成年者らを申立人の監護養育に委ねるのが相当である。

確かに、前記認定のとおり、相手方は未成年者らと同居しているときには良好な関係にあり、現在も未成年者らに対する愛情や環境の点で申立人に劣るものではないこと、申立人が自ら提起した離婚訴訟に協力することなく、我が国において本件申立をすることは信義に悖る行為であることなどの相手方にとって有利な諸事情が存在する。しかしながら、これらの点を考慮に入れてもなお、申立人の未成年者らに対する監護養育に格別問題のない以上、申立人を未成年者らの監護者に指定するのが相当である。

4  よって、申立人の申立を認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 村岡泰行)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例